第17話 アッサムとアールグレイ
中間テストの 学年順位表をまえに、 学級委員の宮越は
呆然としていた。
彼のポリシーでは 「学級委員」 であるかぎり
常に自分は 「10位」 以内に入っていなければならない。
とうぜん クラスで トップをキープするのは、 言うまでもない。
学級員イコール成績優秀者。
これが彼の貫いてきた信念だ。
けれど今回の宮越の学年順位は、 自己記録のなかでも
過去最低の 「12位」 だった。
目標までふたり分、 届いていない。
ふたり ……
厚めの眼鏡のフレームを、 スッと押し上げる。
これは、 メガネと付き合いの長い宮越が、 深い思考の森に入るときの儀式だ。
10位内に入れなかった原因。
12−10=2
常連の成績優秀者10名のほかに、 今回は 彼にとって屈辱的な人物が ふたり混入している。
同じクラスの 「日高ハルキ」 と、 もうひとりは 「真嶋トオル」。
学年順位でいえば、 ハルキが3位で、 トオルは8位。
この二人が入っているせいで、 宮越は目標に届かなかっただけでなく
「学級委員のくせに」 クラス内で3位に転落してしまった。
同じ小学校を 卒業した宮越は、 ハルキが成績優秀なのは、 周知の事実として受け入れる覚悟があった。
ハルキは、 運動神経バツグンで、 端正な顔だちに加え、勉強もできる。
ここまで三拍子そろっていると、 ひとつぐらいは勝ちたいと思うのが道理だが
現実はつねに不公平にできている。
三拍子そろっている奴が、 たいていは勝つようになっている。
生きてきた時間だけが公平に与えられるのであって、 生まれ持った能力や環境は
不公平に備わるのが自然の成り行きというものだ。
最近になって、 宮越はその不平等を 「個人差」 というカテゴリーに、 入れられるようになった。
よってハルキに関しては、 かろうじて理性を保っていられた。
だが、 あの 「原始人」 と呼ばれる田舎者 ……
真嶋トオルにだけは、自分より上位に位置している事実が、どうしても許せない。
「あんな下品な男が、 僕より優秀なわけがない …… 」
追い討ちをかけるように、 トオルとハルキの会話が聞こえてきた。
「へえ〜、 ハルキ。 おまえ 見かけによらず 頭いいんだな」
「ああ、 おまえは、 見かけ通り の バカらしいな」
「あんだと、 てめエ! この場で、 ぶっ飛ばしてやっか?」
「そういう口のきき方は、 俺に勝ってからにして欲しいね」
なんのことはない、 いつもの二人の痴話ゲンカである。
しかし今の宮越には、 ハルキがトオルを 「バカ」 呼ばわりしている態度が、 傷ついた神経を逆なでしていた。
8位のトオルが 「バカ」 なら、 12位の宮越は どうなるのか?
もちろん、 ハルキに悪気はない。
単に、 売り言葉に買い言葉というやつで、 ケンカ友達に応戦しているに過ぎない。
それでも宮越は、 自分が 「バカ以下」 と呼ばれているようで、 ますます気持ちが落ち込んでいった。
そこへ落胆の元凶が、 明るく元気よく話しかけてきた。
「お〜い、 学級委員! ノートありがとな。 おかげで、 助かったぜ!」
そうだ。
宮越が落ち込む原因は、 もうひとつあった。
彼は、 トオルにノートを貸していたのだ。
もちろん、 親切で貸した訳ではない。
宮越にとって真嶋トオルは、 人の恋路を邪魔する人間。
いつか仕返ししてやりたいと願う存在。
早い話が、 憎らしいわけで、 そんな相手に親切にするほど、 宮越はお人好しではない。
それは、 十日前のできごとだった。
同じクラスでテニス部員の高木が、 奈緒にノートを見せてくれと頼んでいた。
テニス部員は、 学業がおろそかにならないよう、 テストで赤点を取った時点で
すぐに休部届を出さなければならない。
そして次のテストで、 合格ラインに届くまで、 部活に戻れない決まりになっていた。
部活動の疲労から、 授業中居眠りしている高木は、 このピンチを回避するために
ふたりのターゲットに接近した。
ひとりは、 見るからに気の弱そうな 、西村奈緒だった。
「なあ西村、 頼むよ。 とりあえず、 英語と、 日本史と、古典だけでいいからさ」
三つも頼んでおいて、 「だけ」 と言い切る高木は、 残りの科目を 「小心者の久保田」 に借りようとしていた。
「ノー」 と言えない人間をターゲットにして、 自分の怠慢をカーバーしていく。
こういう奴を 「世渡り上手、バチ当たり」 というのだ。
そこへ、 もうひとり、バチ当たりな奴が介入してきた。
「俺も頼むぜ、 奈緒!」
高木と同じテニス部員のトオルである。
もともと内気な性格の奈緒は、 バチ当たりな奴らの 「わがままな願い」 をキッパリと断れなかった。
しかもトオルに対しては、「 惚れた弱み」 まで加わっている。
ノートを貸すこと自体は、 それほど躊躇するものでもない。
ただ、 内向的な彼女は 、男子にノートをあちこち見られるのが、 ひどく恥ずかしかった。
けれど目の前で二人して懇願されると、 さすがに気の毒に思えてきて
仕方なく 「バチ当たり」 な連中に自分のノートを手渡した。
「おお、 ラッキー! どれどれ、 へエ、 おまえ、 几帳面に書いているなあ …… 」
感心しながら、 トオルがノートを写し始めた時だ。
横で作業をしていた高木が、 とつぜん固まった。
「ま、 真嶋、 おまえ …… 」
「ん?」
「おまえ、 なに写してるんだ?」
「なにって、 奈緒のノートに決まっているだろうが!」
「マ、 マジで?」
不思議に思って、 奈緒がノートを覗き込むと、 なにやら 象形文字のようなものが目に入った。
高木が固まった原因はこれだ。
トオルは恐ろしく、 字が下手だったのだ。
中学生レベルの下手ではなく、 幼稚園生レベルの下手である。
よく 「ミミズがはうような」 と表現するが、まさしく トオルのノートには
ミミズがのたうちまわって、 もがき苦しんでいるようだ。
このまま 「ミミズの観察記録」 として、 生物部に献上したほうが、 まだノートの存在価値がある。
これでは、 いくら写したところで、 後から読めるものではない。
「オレさ、 字を書くの嫌いなんだよ。 面倒くせえじゃん」
「そういう問題か? おまえ休部がかかっているんだぞ」
間髪入れずに、 高木が突っ込む。
「ああ、 それはヤバイ」
口ではそう言っているが、 二本足で 椅子に寄りかかっている仕草から
トオルはすでに ノートを写すのに飽きているらしい。
よほど字を書くのが 嫌いなようだが、 これでは休部は免れない。
「それじゃあ、 私がノートのコピーをとっておくから。
部活が終ったら、 家まで取りに来てくれる?」
状況を見かねた奈緒が提案すると、 トオルの顔が輝いた。
「え、 マジで?」
そこに宮越が、 割って入った。
「いえ、 その必要はありません、 西村さん。 それなら、ぼくのノートを、 真嶋君にお貸ししましょう」
トップを狙う宮越は、 すでにテスト範囲を、 別のノートにまとめてあった。
正直なところ、 苦労して作り上げたノートを 「天敵」 に貸すのは、気分のいいものではない。
天敵……それは宮越にとって、 トオルのために存在している言葉のように思える。
入学以来、 ずっと奈緒のことを 思い続けている宮越は、 とつぜん転校してきて
嵐のごとく 彼女の隣の席を 自分から奪い、 毎日のように 彼女の弁当のおかずを 頬張っている田舎者に
ライバル以上の感情を抱いていた。
ライバルとは 競争することを目的としている。
けれど宮越にとって 真嶋トオルは、 競争などという 生易しいものではなく
今すぐ 目の前から消えて欲しい存在。
自分が生活していくうえで、 このうえなく邪魔な存在。
まさに天敵だった。
だからこそ、 最近やたらと仲がいい二人を、 これいじょう 接近させるわけにはいかなかった。
ましてや自分 を差し置いて、 彼女の家に行くなど、 とんでもない行為だ。
「やっぱ 学級委員って、 いい奴 ばっかだなあ!」
宮越の ささやかな陰謀にも気づかず、 無邪気に トオルは喜んでいる。
この悪意のない無邪気さが、 さらに 憎悪を掻き立てるが
この時点で宮越は、 作戦成功だと 満足していた。
これで、 二人が急接近するのは 避けられる。
しかも 「頼りになる学級委員」 として、 奈緒のポイントゲットにも成功した。
そして中間テストで、 トップをとれば、ダブル ・ ポイントゲットのはず …… だったのだ。
「お〜い、 学級委員! ノートありがとな! おかげで、 助かったぜ!」
落ち込む宮越の気持ちなど、 一切無視して、 トオルが明るく礼を言っている。
学級委員という立場上 「こっちは大迷惑している」 とも言えず
彼は 「いえ、どういたしまして」 と応えるのが、 精一杯だった。
ノートを貸した相手の方が、 作成した本人より成績がいい。
この理不尽な展開は、 いったいどのカテゴリーに加えればいいのか。
なんども何度も、 メガネのフレームを押し上げながら、 思考の森が 「巨大迷路」 と化していく。
宮越からすれば、 トオルはただの 「田舎者の野蛮人」 に過ぎない。
その 田舎者の野蛮人が 自分より順位が上だった。
さらに自分は、 その順位を上げる手伝いをした 単なる 「マヌケなお人よし」 になっている。
これは 個人差 だけでは、片付けて欲しくない。
あと何年かすれば、 人間には 「運のいい奴」 と 「間の悪い奴」 が存在するとわかるのだろうが
中学一年生の宮越には、 このうえなく 難解な疑問として映っていた。
メガネを押しても、 引いても、 こすっても、 答えが出てこない。
結果、 解けない問題を引きずるあまり、 彼が一日中壊れていたのは言うまでもない。
メンテ中の 学級委員をよそに、 教室では、学園祭の話し合いが行なわれていた。
進学校である光陵学園は、 主な行事が、 春に集中して組み込まれている。
夏休みから、 受験勉強に 専念できるようにという配慮からだ。
中間テストが終った開放感も手伝って、 学園祭の話し合いは、 いつになく盛り上がりを見せていた。
「やっぱり、 こんかいは日高君と真嶋君で、 宮本武蔵の劇とかいいんじゃない?」
女子の一人が提案する。
ハルキはクラスでは、 「日高君」 と呼ばれていた。
父親がコーチのテニス部では、 ふたりの 「日高」 を区別するため、 「ハルキ」 と呼ばれているが
クラスに戻れば 「日高君」 だ。
「んじゃ、 オレ 武蔵!」
トオルは、 やる気満々だ。
「なに言ってんだよ。 俺が 武蔵 で、 おまえが 小次郎 に決まっているだろ」
「なんで、オレがおまえに、やられなきゃいけねえんだよ!」
「いつもの事じゃん」
「悪りィが、 剣ならオレは負けねエぞ」
「そうやって、 熱くなったから、 小次郎は負けたんだよね」
また、 ふたりのバトルが始まった。
宮本武蔵の劇は、 いつもケンカばかりしているふたりには、 ハマリ役だと誰もが思った。
こういう学園祭の話し合いになると、 クラス内の人気の度合いが、よくわかる。
はじめは田舎者の不可解な言動に、 一歩引いていたクラスメートたちも
大らかな性格の転校生を、 すぐに仲間として受け入れるようになっていた。
さらに、 トオルにつられるようにして、 ハルキも仲間に加わえられた。
以前は、 人と接することなど、 ほとんどなかったハルキだが、日々繰り返される「痴話ゲンカ」のお陰で
クラスの皆とも話をするようになった。
おそらく、 つまらないケンカを通して、 本人の気持ちや考え方が、 周りにも伝わってくるのだろう。
「日高コーチの息子 」も、 他のクラスメートと変わらないということが。
転入当初から比べれば、 二人とも確実にクラスの人気者になっていた。
「トオルには、 人の心を開かせる、 不思議な力があるのかもしれない」
さいきん奈緒はそう思うようになった。
周りの人間と距離を置いていたハルキでさえ、 トオルにはありのままの感情をぶつけている。
ただ奈緒が不思議でたまらないのは、 このふたりの 「本当の関係」 だった。
「お互い、 本当はどう思っているんだろう?」
よくケンカをするが、 トオルもハルキも、 互いを嫌っている様子はない。
現にテニス部の処罰で、 部室の掃除当番をしていた二人は、 なんだか やけに楽しそうだった。
顔を合わせればケンカはするが、 相手のことは認めているという 「ケンカ友達」 の関係は
女子同士のつながりとは、 少し異質なものになるのだろう。
ふたりの 「本当の関係」 について、 奈緒が考えているうちに
クラスの出し物は、喫茶店に落ち着いていた。
結局、 トオルも ハルキも 「武蔵」 役をめぐって 一歩も引かず、 なかなか話が進まなかったのだ。
今度は、 男子の一人が提案した。
「ウェイトレスの制服は、 ミニスカートがいいと思いま〜す!」
「賛成!」
男子は、 やたら盛り上がっているが、 女子はとうぜん反対だ。
またしても、 話が進まなかったので、 制服は保留にして、各自が役割分担を立候補することになった。
トオルの後ろの席から、 高木が声をかけた。
「なあ、 真嶋……」
「あ?」
「おれ衣装係り、 引き受けようかな〜。 一緒にやらないか?」
「なんで?」
「決まっているだろ。 制服、 ミニスカ にすんだよ!」
「世渡り上手」 と呼ばれるだけあり、 さすが高木は抜け目がない。
おまけに中学1年生の男子となれば、 女子のミニスカート姿に、 関心をもたない奴はいない。
トオルも一瞬、 高木の誘惑に乗りそうになった。
よく考えてみれば、 山の中で育ったトオルは、 女性のミニスカートを、 近くで見たことがない。
学校に通ってくる女子は、 全員ジーンズかジャージだったし、 その頃はあまり興味もなかった。
だが中学生になれば、 いくら他人の服装に無関心でも、 スカートという分野は別枠になってくる。
「衣装係か …… 悪くねエよな」
本気で考え始めたトオルの耳に、 ほかの男子の内緒話が入ってきた。
「なあ、 西村って、 まだ、 役割分担決まってないみたいだぜ」
「 よっしゃ! これで西村のミニスカ ・ ウェイトレス、 決定だな」
「意外と悩殺系だったりして …… 」
「体操着の上からしか見てないけど、 なかなかイケてるみたいだぜ」
「おまえ …… 体育の時間、 そんなとこ見てんのかよ」
奈緒のウェイトレス姿を想像しながら、 他の男子もニンマリしていた。
「ミニスカの奈緒 …… 」
唐突に 「見たい欲求」 と、 「見たくない欲求」 が入れ替わり立ち代り、 トオルの頭を駆け巡っていた。
本人は混乱していて区別がつかないだろうが、 正確には 「ものすごく見たい欲求」 と
「絶対に見せたくない独占欲」 が絡み合っていた。
自分は見たいが、 他の奴には見せたくない。
なんとも傲慢な考え方だが、 これが思春期というやつだ。
次々と役割分担が決まる中、 奈緒はどうしたらいいか、 わからなかった。
断固ミニスカを拒否する女子達が、 我先にと 「ウェイトレス以外」 の役を奪い合っている。
ただでさえ、 内気でトロい奈緒には、 他人を蹴落としてまで、 立候補するほどの気の強さはない。
やろうと思っている係りが、 次々と決まっていく。
「どうしよう?」
そう思ったときだった。
となりから奈緒の手をガッチリ掴んで、 トオルが手を挙げた。
「オレ、 奈緒と買出し係やる!」
奈緒のミニスカを期待していた男子から、 一斉にブーイングがあがった。
「真嶋、 おまえ西村の前で、 格好つけんじゃねえぞ!」
野次、 罵倒が次々と トオルに飛んできた。
奈緒は、 ミニスカも恥ずかしいが、 こうして皆から、 罵声を浴びせられるのは、 もっとつらかった。
けれど、 トオルはそんな野次に怯むことなく、 理路整然と説明を始めた。
「オマエら、 人の話を最後まで聞けって。 いいか、 奈緒は手芸部で、 当日はクラスに出られない。
だから、 ウェイトレスはムリだ。 しかもコーヒーに詳しい。
そんで、 オレは紅茶に詳しい。 だから、 買出し係をやる!わかったか?」
途中まで納得しかけた級友が、 さいごの 「オレは紅茶に詳しい」 で引っかかっていた。
「おいおい、 西村はわかったけど、 真嶋の 『紅茶に詳しい』 はウソだろう!」
この部分だけは、 だれも納得していない。
けれど、 続いて飛び出した紅茶の演説に、 全員が口をふさがれた。
「ひと口に紅茶といっても、 ダージリン、 セイロン、 スリランカ、 キームン。
それから、 中国紅茶だってある。
ミルクティーにするなら、 アッサムだけど、 アイスティーにするなら、 アールグレイだって必要だ。
それぞれ茶葉によって、抽出時間も異なる。 それを全部頭に入れて、 買出しできる奴 ……
オレの他にいるか?」
教室の中が、 授業中よりも静かになっていた。
はなしの内容ももちろんだが、 お世辞にも品がいいとは言えない田舎者から
ここまで紅茶に関しての講釈が聞けるとは、 だれも思わなかったのだ。
奈緒にしても、 トオルが紅茶好きだと知ってはいたが、 せいぜい缶紅茶の種類に
こだわりがあるぐらいだと思っていた。
シィ〜ンと皆が静まり返る中、 ハルキが口を開いた。
「じゃあ、 決まり。 ついでに俺も、 買出し係 立候補していい?」
人気者二人の堂々たる立候補に、 買出し係りに反対する者は、 もう誰もいなかった。
「あの、 トオル。 ありがとう」
奈緒は、 短く感謝の気持ちを伝えた。
「ミニスカ、 はきたくなかったから、 助かっちゃった!」 などと、 「ミニスカ」について男子と話せる勇気を
彼女は持ち合わせていない。
となりの席から送られてきた感謝の言葉に、 トオルも横を向いたまま短く答える。
「いや。 制服、 似合いそうにねエから、 オマエ …… 」
彼が短く答えたのは、 奈緒のように恥ずかしかったワケではない。
せっかくのチャンスを無駄にした後悔から、 それ以上の言葉が出なかっただけである。
となりで困り果てた彼女を見るに忍びなくて、 思わず立候補してしまったが
「奈緒のミニスカ姿を見たかった」 というのが、 今さら言えない本心だ。
ただホッとしている奈緒の笑顔は、 トオルに充分な満足感を与えていたのも事実だった。
思わぬ形で、 ウェイトレスから逃れることが出来た奈緒は、 トオルとハルキに感謝していた。
結果としてふたりは、 奈緒を助けてくれたのだ。
それも絶妙のコンビネーションで。
これを機に、 彼らが本当に仲良くなってくれればいいと思った矢先
また 「あのふたり」 がケンカしていた。
「ハルキ、 なんで 買出しに来ねえんだよ!?」
「俺、 きょうはコート整備担当だから。 待っててくれてもいいけど、 西村の帰り 遅くなると思うぜ」
「おまえ、 最初から、 それ計算に入れて、 立候補しただろう?」
「さあね。 おまえ、 詳しいんだから、 困らないだろ?
誰しもひとつくらい、 取り柄ってあるもんだよな」
「てめエとは、 拳の方でも決着つけきゃなんねエようだな!」
ライバル同士の息のあったやり取りを眺めながら、 奈緒は、 ふたりの 「本当の関係」 を知るのは
自分が俊敏になることよりも難しいと感じていた。