第 8 話 非情なナンバー2
一枚の写真が、 トオルの目の前で空を切った。
試合の挑戦権を得るために預けた、 大切な奈緒との
ツーショット写真。
それをゲイルはビラを捨てるかのような手つきで、
無造作に投げてよこした。
「こんなもの賭けたところで、 俺には何のメリットもない。
返してやる代わりに、 負けたら二度とここへ顔を出すな。
それが俺の条件だ」
新品のレギュラージャージを羽織ったトオルと、 赤い顔で
うつむく奈緒。
照れまくる二人の姿が高く舞い上がり、 空中で大きく一回転してから力なく落ちていった。
「そろそろガキは寝る時間だろう?」
ふらつく足どりで写真を拾い上げる様子を見て、 ゲイルが冷やかな笑みを浮かべた。
情けないことに、 トオルは立っているだけで精一杯の状態だった。
何か言い返す労力さえ惜しまれる。
「奈緒……」
こんな時、 彼女が傍にいてくれたら、どれほど心強いか。
トオルの勝利だけを信じてくれる眼差し。
勇気づけてくれた言葉の数々。
彼女の笑顔が見たい一心で、 必死になって実力以上の結果を出したこともある。
当たり前のように過ごした幸せな日々が、 手にした写真から甦ってくる。
人種差別も、年齢制限もなく、 好きな時に好きなだけ練習できる場所があった。
成長に合わせて、 必要なことを教えてくれる先輩達がいた。
どんな時でも、 寄り添うように励ましてくれる奈緒がいた。
ようやく戻ってきた写真から目を逸らして、 トオルは出来るだけ急いで元の場所へしまった。
あまり長く見つめていては、 自らの泣き言に飲み込まれそうになる。
体が疲れてくると、 心まで弱くなるらしい。
「アイツさえ倒せば……」
無理やり気持ちを奮い立たせ、 ありったけの力を込めてサーブを叩きつけた。
同時に、 目の前を鋭いスピンのかかったボールが通り過ぎていった。
しかも、 そのリターンは正確にコースを狙って放たれたものだ。
渾身の力を込めたサーブを、 一瞬のうちにコースまでつけて返されたのだ。
ある程度覚悟はしていたものの、 ナンバー2の実力は並外れている。
自分のサービスゲームにもかかわらず、 強烈なリターンのせいで、 思うように攻撃を仕掛けられない。
それどころか、 際どいコースを狙われ、 逆に追い込まれている。
敵のボールに翻弄されながら、 トオルはネットにつくチャンスをじっと待った。
前方からなら、 振られる幅が狭くなる上に、 攻撃のチャンスが増えるからだ。
すると、 向こうから絶好球が返ってきた。 ネット際に落ちるドロップショットだ。
ロブで決めるための罠かもしれないが、 今はこのチャンスに賭けるしかない。
迷わず前へダッシュした、 その時。 ゲイルがフッと笑ったように見えた。
そして次の瞬間、 トオルは体ごと後ろに吹っ飛ばされていた。
一瞬、 何が起こったのか理解できなかった。
しかし左頬から伝わる火傷に似た痛みから、 相手の狙いがどこにあったか、 すぐに分かった。
他の球技と違って、 テニスで使用するボールは 表面がフェルト状の細かい繊維で覆われている為に、
素肌に当れば打撲と一緒に 摩擦の痛みも焼き付けられる。
回転が施されたボールは特に。
「なるほど、 そういうことか……」
試合前に、 ビーがキャンセルしろと忠告した理由は、 これだった。
ゲイルはドロップショットで前へおびき出しておいて、 顔面を狙ってスピンボールを打ち込んだのだ。
ラフプレーに走るのは、 実力のない奴がするものと油断した。
ここは常識が存在しない危険区域で、 こういう卑怯なプレーも、 攻撃手段の一つとして公然とまかり通る場所だった。
外からの衝撃で、 口の中も切れてしまったらしい。
薄っすらと血の味がする。
赤くなった唾を吐き捨てると、 トオルはゆっくり立ち上がった。
頬の傷が焼けるように痛んだが、 試合に支障はない。
ラケットを支えにして立つ挑戦者に、 ゲイルの冷たい視線が追いかけてきた。
左頬に向けられたその視線は、 傷の具合を心配するというよりは、
自分の放ったスピンボールの威力を、 生々しい傷跡を観察して確かめているようだ。
「ガキは寝る時間だと教えてやっただろう。
それとも、 まだ足りないか?」
「アンタ、 やっぱり最低だな」
試合前と同じ台詞を、 もう一度トオルは 冷酷なナンバー2にぶつけた。
「目の前で俺を侮辱するのは許さないと、 言ったはずだ」
「侮辱じゃない。 本音だ。
オレはどんなに追い込まれても、 ラフプレーだけは絶対にしない」
「別に追い込まれたわけじゃない。 無駄なものを排除しようとしただけだ。
利用価値のない奴は、 目障りだからな」
「仲間も大事に出来ないアンタに、 それほど価値があるとは思えねエけど?」
てっきり殴ってくるかと思ったが、 ゲイルは黙ってサービス体勢に移った。
トオルの怒り込めた主張は、 またも空振りで終わった。
そう結論づけたのは、 あまりにも浅はかだった。
いきなり顔に向かって跳ね上がるサーブ。
スピンサーブの一種だが、 彼はそれを使って、 今度こそ 「無駄なもの」 を排除しようとしてきた。
これが答えという事か。
とっさにボールの軌道を読んで返したものの、 間髪いれずに、 あのドロップショットが戻ってきた。
次も顔面を狙われると予想はついたが、 ここで拾わなければ失点する。
リターンに苦戦してサービスゲームを落とした後で、 これ以上点差を開かせるわけにいかない。
さっきの痛みを思い出し、 体の中に緊張が走ったが、 構わず前へ突っ込んでいった。
一つだけ、 危険を回避して返球する方法があったからだ。
トップスピンロブだ。
空中で弧を描くようにして落るロブなら、 相手が後ろに下がる時間を利用して、 充分な間合いを取ることも可能だ。
トオルはドロップショットに追いつくと、 力いっぱいボールをこすり上げた。
ところが、 こっちの考えを読んでいたのか、 すでにゲイルはバックコートで構えていた。
迷うことなく、 すうっと後ろに引かれたラケット。
それはスマッシュに入る直前のフォームだった。
あの強烈なスピンボール以上に威力のある打球が直撃した。
今度は顔面ではなく、 無防備な腹部に。
立っているだけで精一杯の状況で、 不意を突かれたスマッシュを、 かわせるはずがない。
長身から放たれた弾丸のようなボールを、 腹に叩き込まれればどうなるか。
答えを出す前に、 生温かい物が逆流してくる不快感に襲われた。
赤く染まるコンクリートのコート。
そこへ仰向けに倒れたトオルは、 地面に塗られたペイントが、 カラースプレーだけではないと初めて知った。
赤や黄色のスプレーに混じって、 茶褐色をした血痕がいくつもある。
今の時期はほとんど雨が降らないため、 洗い流される機会もなく、 こびりついたのだろう。
前のプレイヤーが残した血痕の上に、 自分の鮮血が重なっていく。
「生きていたかったら、 絶対に近づくな」
シェフの忠告どおりだった。
「なんでかなぁ……」
薄れ行く意識の中で、 いくつかの疑問が浮かび上がる。
なぜ自分は危険を冒してまで、 危ない連中と試合を続けるのか。
なぜ最強の男との勝負を望むのか。
なぜ強くなりたいのか。
もっとも大きな疑問は、 この期に及んで、まだ手足が動くかどうか確認する自分。
指先は問題ない。 これでラケットは握れる。
それから手首、 肘、 肩。 打ち返すことも出来る。
脚にもケガはない。 まだ走れる。
少しだけ、 視界がぼやける気がした。
霧がかって見えるのが、 頭の中か、 目の前なのか、 よく分からなかった。
ただリストバンドの文字だけは、 くっきりと見える。
『トオルなら、 できるよ』 の紫色の刺繍。
周りで誰かが 「やめておけ!」 と怒鳴っているようだが、 ひどく遠くに聞こえる。
強くなりたいから ―― 自分で居場所を決められるぐらい 強くなりたいから。
その想いだけで、 トオルは起き上がった。
「サーブ、 返さなきゃ……」
リターンのポジションに着いたところまでは覚えている。
だが記憶はそこまでだった。
「必ず、 ここへ帰って来い」
なぜか唐沢の声がしたかと思うと、 再びトオルは仰向けに転がっていた。
恐らくゲイルのスピンサーブを喰らったのだろうが、 今度は痛みがない。
次第に辺りが暗くなり、 何も見えなくなった。
「予定より時間を喰った。
ガキのくせに手こずらせやがって」
自分が放ったボールを受けて倒れた人間の前で、 ゲイルが見せたのは安堵の溜め息だった。
ここのメンバーも、 彼のスピンボールで気を失った人間が何人もいる。
乱闘慣れしている彼らでさえ、 最初は一発目で意識がなくなる。
それを三発続けて浴びたのだから、 どんな状態であるかは、 全員が知っている。
しかし、 誰もトオルを助けに行こうとしなかった。
非情なナンバー2の神経を逆なでする様なことがあれば、 次は自分が排除されるからだ。
荒くれどもを大人しくさせる程の恐怖を破り、 コートの中に入ったのは、 たった一人。
前の試合でトオルに敗れたビーだ。
「ガキ相手に、 ここまでやることねエだろ?」
「試合終了だ。 さっさとそのガキ、 つまみ出せ!」
「ちょっと待てよ。
このまま放り出したら、 コイツ死ぬかもしれない。 せめて意識が……」
「つまみ出せと言ったんだ。
ナンバー3のオマエが逆らう理由はない」
このストリートコートでは、 ランクが上の人間に、 下の者は従わなければならないルールがある。
指示に従えない者は、 出て行くしかない。
唇を噛み締めながらも、 ビーがトオルを抱え出口に向かおうとした時だった。
「放り出す前に確かめたい事がある。
おい、 ビー。 その小僧、 こっちに連れて来い。
たぶん一人じゃ重いだろ。 レイも手伝ってやれ」
ナンバー2の指示を覆せる人物は、 一人しかいない。
リーダーのジャンだ。
「小僧のラケット外してやれ」
気を失っているというのに、 トオルはラケットを握り締めたままだった。
「コイツ……」
言われた通りラケットを外そうとしたビーが、 トオルの手首を見て言葉を失った。
ここまで勝ち上がってきただけでも信じられないのに、 その腕にはトレーニング用のパワーリストが巻きつけられている。
「それだけじゃねエだろ?」
ジャンがニヤリと笑った。
足首を確認すると、 同じようにパワーアンクルもつけている。
その様子を見ていたナンバー2の顔色が、 瞬く間に変わった。
「このガキ、 ナメた真似しやがって!」
今にもトオルに襲い掛かりそうな勢いのゲイルに対し、 ジャンは普段通りの口調で話しかけた。
「なあ、 ゲイル……
ここまでガキにコケにされちゃあ、 ナンバー2を張るオマエの立場もないよなぁ」
「何が言いたい、 ジャン?」
「一ヵ月後にもう一度、 本気で決着つけるってのは、 どうだ?」
「それなら、 明日でもいいだろ?」
格下だと思っていた少年のウエイトを見せられ、 プライドを傷つけられたのだろう。
あまり感情を露にしないゲイルが、 珍しく苛立っている。
そんなナンバー2を気にとめることなく、 ジャンは丸太の上でどっしりと構えたまま続けた。
「ハンディさ、 ゲイル。
ガキ相手に本気出すんだ。 それぐらいのハンディは、やらなきゃなぁ……」
話し方は穏やかだが、 ジャンがこうして腰を据えて説得する時は、 どんな理屈をつけたとしても逆らえない。
長い付き合いの中で、 ゲイルはそれを知っていた。
そこへ突然、 トオルが目を覚ました。
「試合は!?」
コートの中にいるはずの自分が、 丸太の下にいる。
目覚めたばかりトオルには、 この事実が把握できなかった。
「試合中に気を失ったんだ。 小僧の負けだ」
「……負けたのか……オレ……」
敗北を聞いたとたん、 今まで張り詰めていた緊張の糸が切れ、 全身の力が抜けていった。
力なくへたり込むトオルに、 ジャンが口調を変えずに問いかけた。
「どうしてウエイトを外さなかった?
それ外していたら、 もっとマシな試合が出来ただろ?」
「コレつけて勝てなきゃ、 もっと強いおっさん倒すのは無理だと思ったから……」
この発言を聞いて、 ゲイルが声を荒げた。
「貴様、 俺をコケにしやがって!」
「アンタをコケにしたつもりはない。 けど、最初に言ったはずだ。
オレは最強の男と試合しに来たんだ」
「他は眼中にないと言いたいのか?」
「アンタが最強の男なら、 話は別だけど。
みんなの練習の邪魔して悪かった。 オレ、 もう行くから」
出口に向かおうとしたトオルを、 ゲイルが呼び止めた。
「待てよ。 このまま、帰れると思っているのか?」
「負けた奴は出て行くしかないだろ?
アンタも、 そうして欲しかったんじゃないのか?」
「一ヵ月後だ。 もう一度、貴様と試合をしてやる。
次は、 そのふざけたウエイト外して来い!」
足早に出て行くナンバー2。
それを見送りながら、 ジャンがまた意味深な笑みを浮かべた。
「アイツはプライドの高い奴だからな。
ま、 小僧のプライドとは、 少しばかり違うようだが……」
「おっさん、 どういうことだ?」
さっきまで意識を失っていたトオルには、 なぜゲイルが心変わりしたのか見当もつかない。
丸太の上に説明を求めたが、 返ってきたのは予想外の、 それもトオルの運命を大きく変えてしまう一言だった。
「小僧! 今からオマエは、 ここのナンバー3だ」
「はあ……?」
ジャンの言葉に驚いたのは、 トオルだけではない。
他のメンバーからも、 驚きの声が上がった。
「ジャン、 本気かよ? コイツ、 どう見ても十六歳じゃねえぞ」
「ヤベエだろ、 それ?」
「俺らが誘拐したと思われたら、 どうするんだ?」
皆の心配をよそに、 ジャンは澄ました顔で話を進めた。
「なあに、 ガキのひとりぐらい、 俺が面倒見てやるから心配するな。
だが一応、 年齢だけ聞いておくか。 最近、 何かと周りもうるさいからな……
小僧、 歳いくつだ?」
「じつは……」
「日本人は幼く見えるから、 さしずめ十四ってとこだろ?」
そう思い込んでくれるなら、 このまま十四歳で押し切ろうかとも考えた。
しかし、 どういうわけかジャンには嘘をつきたくなかった。
「十二歳」
しんと、 笑いのつぼを外したような寒々とした沈黙が、 丸太からフェンス周辺まで広がった。
周りを見渡すと、 メンバー全員がトオルの年齢を聞いて、 口を開けたまま固まっている。
年下なのは分かっていたが、 自分達が負けた相手が、 まさか十二歳だとは思わなかったのだろう。
「来月には十三になるけど……」
ほとんど効果のないフォローを入れた直後に、 豪快な笑い声が丸太の上から響いた。
「小僧、 十二歳か? こ いつは傑作だ!」
津波のような笑い声を起こすリーダーと、 驚いたまま静止するメンバーとの間で、
トオルはただオロオロとするばかりである。
「正直は一生の宝」 と、 道徳の授業で教わった。
しかし、 場の空気の読めない正直者は、 知らないうちに人を怒らせるとまでは、 教えてくれなかった。
「貴様、 どこまで俺をコケにすれば気が済むんだ!」
帰ったと思ったゲイルが、 フェンス越しにこっちを睨んでいる。
「いいか、 クソガキ。 ここに居ていいのは、 一ヶ月だけだ。
負けたら、 二度と顔出すなよ。 試合の条件は変わっていないからな!」
トオルの実年齢を知って、 ますます彼は気分を害したらしい。
取り出した煙草をすごい勢いで吸い始めると、 そこらじゅうに煙と暴言を撒き散らしながら去っていった。
再び静まり返ったフェンスの中で、 まだ笑いの余韻を引きずるリーダーが、 愉快そうにトオルを見下ろした。
「小僧、 どうせ行くとこねエんだろ?」
「な、 なんで、 それを?」
試合を見ただけで、 どうしてそこまで分かるのか不思議だった。
「さっき 『ここが最後の砦だ』 と、 ほざいていた」
「あ、 そっか……」
言われてみれば、 彼と勝負したい一心で口走った気がする。
ジャンは、 それを覚えていたのだ。
トオルは冷静に考えてみた。
ナンバー3になれば、 人間を相手に練習が出来る。
こんな危ないところに長居するつもりはないが、 一ヶ月だけなら悪くない。
それに、 来月ナンバー2と試合をして勝てば、 今度こそ最強の男と勝負できるのだ。
彼の提案に異論はないが 、一つだけ確認したい事があった。
「オレ……日本人だけど、 いいのか?
入った後から 『金払え』 とか、 言わないよな?」
トラウマというやつだ。
元いたテニス部に未練はないが、 コーチから受けた仕打ちは、 忘れようにも忘れらない。
アメリカ人の中で、 日本人が金も払わずにテニスをしていいのか。
つい反射的に用心してしまう。
だが、 その不安をジャンが一掃した。
「周りを良く見てみろ。
ボールとラケット以外、 何がいる?」
コートの周りを囲んでいるメンバーは、 それぞれ似たような事情を抱えているのだろう。
滑稽とも取れるトオルの質問を、 皆が理解しているようだった。
さまざまな髪の色、 肌の色、 瞳の色。
多様な人種に加え、 年齢も、 服装も、 たぶん職業も違うはず。
唯一共通しているのは、 ここにいる全員がラケットを持っている事実だけ。
「テニスやるのに、 他に何かいるのか、 小僧?」
同じ質問を、 ジャンが繰り返してきた。
「オレ、 ここでプレーしていいんだな?」
口ではしつこく念を押しているが、 次第に気持ちが軽くなっていくのを感じる。
「ああ。 但し学校と仕事は絶対にサボるな。
ここに通うなら、 やるべき事を終わらせてから来い」
「本当に、 タダだよな?
後から請求されても、 一ドルだって払わねえぞ?」
「もちろんだ。 だが、 一ヶ月でもメンバーになった限りは、 俺達のルールに従ってもらう。
自分よりランクが上の奴には絶対服従だ。 いいか?」
「わかった。 他には?」
「後はさっき教えた通り、 ここでは金は賭けない。
他の細かいルールは、 ビーにでも聞いておけ」
危険区域を仕切るリーダーのわりには、 学校と仕事はサボるなという真面目な指示が意外に思えたが、
それも皆が彼について行く理由の一つかもしれない。
「よっしゃ、 トオル!
だったら、 これからレイと三人で歓迎会だ」
大はしゃぎするビーの傍らで、 レイがシビアなコメントを挟んだ。
「歓迎会って、 一ヶ月しかいないんだろ?
出て行くとき、 送別会とまとめてやれば?」
「バカ野郎! 俺らは仲間になったんだ。
歓迎会はやるが、 送別会はやらない。
コイツがここを出て行っても、 俺達はずっと仲間だから」
自然に。
ごく自然に、 ビーがトオルに肩を貸した。
「やれやれ。 ビーがそう言うなら、 仕方ないか……」
反対側からレイも抱えてきた。
「サンキュー、 ビーと……?」
「俺はレイモンド。 レイって呼んでくれ」
「サンキュー、 レイ」
傷だらけの体で、 トオルは一歩ずつ歩き出した。
新しく出来た危なっかしい二人の仲間に、 両脇をしっかりと支えられながら。