第 23 話 道を継ぐ者
悪夢ではなかった。
ジャンが夢に出てくる時は大抵刺される直前で、
赤いジャケットの背中しか見えなかったのに。
ところが今回はジャケットを脱ぎ、 正面から向き合うようにして
ラケットを構える彼が現れた。
夢とは言え、 生きている頃と変わらない姿で再会できた事に、
トオルは心から感謝した。
ネット際で不敵な笑みを浮かべる彼は、
通常よりもラケットを立てていただろうか。
グリップを柔らかく保つ為に、 軽く揺らしていたような気もするが。
細かい箇所を思い出すたびに、 どうしようもなく体がうずいてくる。
早くコートに立ちたい。 まだあのフォームを覚えているうちに。
時計を確認すると、 夕方の五時を過ぎている。
今朝、 唐沢に 「休んでいい」 と言われてから、 半日近くも眠っていた事になる。
もう充分休息はとった。
後は走れるところまで走るしかない。
いや、 走りたい。 今すぐに。
湧き起こる衝動を抑え切れず、 手元にあるラケットを掴むと、 トオルは家を飛び出した。
さすがに学校へ行くのは気が引けた。
せっかくの唐沢の好意が無駄になるばかりか、 二時間にも及ぶ遅刻は部活の妨げにもなる。
ここはストリートコートに直行するのが得策と考え、 まだ人がまばらのコートへ足を向けた。
ジャンのアングルボレーを完成させるには、 誰か他に練習相手が必要だ。
理想を言えばボレーの球出しをしてもらうのがベストだが、 それは無理としても、
せめて対等にラリーをしてくれる相手を探そうと思った。
片っ端から拝み倒すつもりで中に入ったトオルは、 そこで思いも寄らない人物から声をかけられた。
先日の地区予選で負傷して、 まだ療養しているはずの村主 (すぐり) である。
「ようトオル、 元気だったか?」
「村主さん、 どうして? 足のケガは、 もういいんですか?」
「ああ。 やっとプレーの許可が下りたから リハビリを兼ねて来てみたんだが、
練習相手がいなくて困っていたところだ。
どうだ、 久しぶりに打たないか?」
「いや、 それが……」
トオルは村主に、 これまでの経緯をかいつまんで説明した。
アメリカでのこと、 自分のせいでジャンが命を落としたこと。
彼の死を乗り越えたと思っていたが、 受け入れたのは死という現実だけで、
まだ罪悪感は拭い切れておらず、 アングルボレーの完成に支障をきたしている事も。
自分でも驚く程、 すんなりと話ができた。
血塗られた記憶が、 過去の出来事として整理されつつある。
「やっと形になりそうなんです。
今まで霧の中に埋もれるみたいに、 ぼんやりとしか思い出せなかったのに、 さっきハッキリと見えたんです。
ジャンがオレに教えようとしてくれたアングルボレーが。
だから、 どうしても再現しておきたくて」
「だったら、 俺が練習相手になってやる」
「でも村主さん、 まだ足が?」
村主の申し出は願ってもない事だが、 彼の足に巻かれたサポーターが、 そうすべきではないと訴えている。
「遠慮するな。 球出しぐらいなら、 何とかできる」
「無茶ですよ。 ここで悪化したら、 オレ、 本当に合わせる顔がないですから」
「このタイミングを逃したら、 また埋もれてしまうかもしれないぞ。 いいのか?」
「それは……」
確かに彼の言う通り、 記憶が鮮明なうちに完成させたいと思ったからこそ、
唐沢の好意を無視してストリートコートまでやって来た。
だが、 その為に再び村主にケガのリスクを負わせるとなると、 やはり躊躇してしまう。
口ごもるトオルに、 村主がさらに説得を重ねた。
「リハビリ代わりに、 ボールを出すだけだ。
無理はしないと約束するから、 俺に借りを返させてくれ」
「借りですか?」
「俺のせいで、 オマエにも他の連中にも嫌な思いをさせたからな」
「いえ、 あれはオレが……」
「違うと言ったはずだ。 だけど、 オマエの性格なら自分を責めるだろ?
俺も同じだ。 だから、 せめて前に進む手伝いをさせてくれ。
そして、 お互いこの事は単なる事故として忘れよう」
自責の念に捕らわれ苦しみ続けている人間は、 自分だけではない。
村主もまた、 被害を受けた身でありながら、 加害者を生んだ己を責めている。
互いに否定できない想いを抱えるのなら、 共に歩き出そうと手を差し伸べてくれているのだ。
「分かりました、 村主さん。 球出し、 お願いします。
でも絶対に無理しないでくださいよ?」
「ああ、 分かっている。 但し、 手は抜かないから覚悟しろよ」
村主からの球出しは、 寸分の狂いもない正確なものだった。
ケガ人である事を忘れてしまうほど、 的確に送られてくるボールは、 彼の技術の高さを物語っている。
一球ずつ返すごとに、 夢で見た映像と埋もれたはずの記憶とが、 徐々に一体化していく。
グリップはあくまでも柔らかく、 ボールを捕らえる直前までニュートラルな状態をキープする事が、
よりシャープな軌道へと繋がる。
そしてラケットとボールが触れたと同時に、 一気にサイドへ回転をかける。
手順は合っているはずなのに、 まだ何かが足りない。
ジャンのボレーは、 もっと鋭く勢いがあった。
「くそっ、 なんで!?」
あと少しのところまできているというのに、 頭の中でイメージした回転が生まれない。
悔しげにラケットを睨み付けるトオルに、 村主が諭すように声をかけた。
「焦るな、 トオル。 球出しなら、 いくらでも付き合ってやるから、 気が済むまで試してみればいい」
「すみません。 もう少しなんですけど、 何か一つ足りなくて……」
練習を続けながら、 トオルは 『ブレイザー・サーブ』 を完成させた時の事を思い出した。
あの時も99%のところまで来て、 最後の1%の答えが見つからず苦しんだ覚えがある。
ジャンだけでなく、 モニカや、 ビーや、 レイのこと。
無意識に封印していた懐かしい面々の顔が思い出される。
ペイントだらけのコンクリートのコートも、 最初にアングルボレーを見せられた時の興奮も。
今ネットを挟んで自分と向き合う村主が、 ジャンの姿と重なった。
生きている頃のジャンと。 『伝説のプレイヤー』 とまで謳われた男の姿と――
不意にトオルは強烈な吐き気を感じた。
あの悪寒を伴う嘔吐が、 すぐ近くに迫っている。
「村主さん、 すみません。 もっとペースを上げてもらっていいですか?」
「分かった」
自分の中で何が起ころうとしているのかは、 過去の経験から予想できた。
アングルボレーの完成が近づくにつれ、 自分自身に対する嫌悪も強くなっている。
ジャンを乗り越えようとする行為に、 自らが異を唱えているのだ。
オマエは充分に苦しんだのか。
忘れ去って済まされる罪なのか。
ペースを上げても、 ますます吐き気は酷くなるばかりだった。
それでも振り払うしかない。
今度こそ前を向いて歩くために。
昔、 一度だけジャンとアングルボレーの練習をした事がある。
確か 『ブレイザー・サーブ』 を完成させた直後だった。
あの時の映像が甦る。 傷を負った村主と重なって。
自分は、 また誰かを傷つけるのではないか。
執拗に迫り来る恐怖と嘔吐。 視界にも、赤い血痕のようなものがチラつき始めた、 その時。
「何をやっているんだ、 トオル!」
いきなり背後から唐沢の声がした。
意識が遠のく感覚はあったが、 ついに何処かへ飛んでいったのか。
あるいは昨夜と同じく、 記憶が途切れてしまったのか。
「馬鹿な真似はやめろ!」
村主との間に立塞がるようにして入ってきたのは、 やはり唐沢だった。
どうやら、 まだ意識は正しく保たれているらしい。
「唐沢先輩、 どうしてここに?」
「部活の帰りにオマエの家に寄ったら留守だったから、 もしかしてと思って来てみたんだ。
一体どういうつもりだ? 今日は休めと言っただろう?」
「すみません。 でも、 もう少しで形になりそうなんです。
ずっと曖昧だったアングルボレーが、やっとハッキリ見えたんです。 だから……」
「そんな青白い顔をして吐く寸前の人間が、 このまま練習を続けて成果が出ると思うのか?
村主も、 まだリハビリ中だろ?」
村主に向き直った唐沢は、 今までに見たこともない厳しい形相で睨み付けている。
友人の体を思っての厳しさではなく、 明らかに無茶な行為を非難する顔つきだ。
しかし当の村主はそ知らぬ顔で、 トオルに向かって 「構わず続けよう」 と言ってきた。
「村主さん、 でも……」
「さっきも話した通り、 お互いの為にも諦める気はない。
いいな、 続けるぞ?」
忠告を無視して練習に戻ろうとする村主を、 後ろから唐沢が引き止めた。
「村主、 どういうつもりだ!?」
「俺達は単にリハビリを兼ねて、ボレー練習をしているだけだ。
目くじら立てて怒る事でもないだろう?」
「ふざけるな! こんな無茶な練習を続ければ、 どうなるか。
傷を悪化させて苦しむのは、 オマエだけじゃない。
うちの大事な部員を潰す気か?」
「潰そうとしているのは、 どっちだ!?」
振り向きざまに村主が、 あの温厚な彼が、 唐沢に掴みかかった。
咄嗟に唐沢も相手の胸倉を掴んだが、 ケガ人という遠慮があったらしく、 形ばかりの対応に見えた。
「どういう意味だ、 村主?」
「言葉通りの意味だ。
唐沢? オマエはトオルに自分自身を重ねて、 結論を後回しにしているだけだろう?
いい加減、 目を覚ませ!」
口では両者とも互角に言い争っているが、 体格の面でも、 気迫の面でも、 村主の方が何倍も上だった。
唐沢の華奢な体が徐々に上へ持ち上げられていく。
切れ者と恐れられた先輩が後手に回る姿も。 お人好しで有名な村主が頑なに自己主張する姿も。
どちらもトオルには、 初めて目にする光景だった。
唐沢の胸倉を締め上げたままで、 村主がさらに続けた。
「地区予選で、 なぜ俺があんな無茶をしたか。
本当の理由を教えてやろうか?」
「本当の理由?」
「オマエが本気を出そうとしなかったからだ」
「何をバカな……」
「違うと言い切れるか?
最初から伊達を狙わずに、 俺と真っ向勝負するつもりだったと断言できるのか!?
答えろ、 唐沢!」
まるで静かだった山の頂に、 突然噴火が起こったような激しさだった。
触れるもの全てを揺さぶり、 怒りに取り込んでいくような。
問答無用の力強さがあるくせに、 その行為自体は虚しくて、 そして何処か悲しかった。
「この六年間、 俺が北斗さんへの憧れだけで光陵学園を追い続けたと思うのか?
代々受け継がれてきた伝統を破るというのは、 綺麗ごとだけでは済まされない。
チームの命運を託せる程の選手がいなければ、 決して踏み切れる事じゃないんだ。
実際に自分で海南というチームを立て直してみて、 よく分かった。
北斗さんは、 オマエや成田を心から信頼していた。
才能とか、勝負強さとか、 判断基準はいくつかあったかもしれない。
しかし最後の決め手になるのは、 『コイツ等となら心中しても良い』 と思える情熱が
オマエ達にもあったからじゃないのか?
だから俺は光陵学園を追い続けた。
北斗さんが認めたプレイヤーと、 同じ土俵で勝負してみたいと思ったから……」
トオルの記憶では、 地区予選で唐沢が手を抜いていたようには感じなかった。
だが試合前、 伊達に関する指示しか受けなかったのも事実である。
あの緊迫した戦いの最中でも、 見る人が見れば、 唐沢が本気を出していなかったと分かるのだろうか。
少なくとも、 村主にはそう見えた。
だからこそ唐沢を追い込もうと、 無茶なボールに手を出したのだ。
「唐沢、 なぜ向き合おうとしない?
北斗さんに認められた自分を、 わざと否定するような真似をする?
オマエが本当の自分と向き合わない限り、 地区予選は勝ち抜けても、 いずれ光陵学園は敗れ去る。
それでもいいのか?」
村主が体を震わせながら発する一言ひと言が、 トオルには涙声に聞こえた。
心の底から絞り出しても届かない、 虚しさの入り混じった悲しい叫びに。
恐らく村主も、唐沢が何かに躓き先へ進めない状態でいる事を、
部長という立場を通して、 あるいはプレーを通して分かっているのだろう。
そしてその原因は、 成田が最後まで気にかけていた一件と関係があるに違いない。
わなわなと震える両腕に締め上げられたまま、 唐沢は一言も返さなかった。
激しい怒りに対して、 反論はおろか、 何の感情も示さない。
ただ一箇所だけ、 彼の心の内を表すものがあった。
長い前髪から透ける視線。 偶然それを垣間見たトオルは、 心臓をぐっと掴まれた気がした。
昨夜の自分が目の前にいる。
「悪かった、 村主。 あの試合のこと……」
生気のない声が聞こえてきた。
あまりに弱々しくて、 負目さえ感じさせる程の声の持ち主は、 トオルの知る先輩とはまるで別人だった。
村主も同じことを感じたらしく、 これまで怒りに任せて締め上げた手元を緩めた。
「唐沢、 俺は謝罪の言葉を聞きたい訳じゃない。
光陵には強くあって欲しい。
俺達に追い続けるだけの価値があったと、 思わせてくれ。
オマエには、 その力があるはずだ」
「すまない、 村主……トオルを頼む」
必死の呼びかけにも応じることなく、 消え入りそうな声で言い残すと、 唐沢はふらふらとコートから出て行った。
「唐沢先輩!」
彼を一人にしてはいけない。
昨夜、 自分が取った行動を思い出し、 後を追いかけようとするトオルを、 村主が引き止めた。
「止めておけ、 トオル。
まずは、 オマエ自身の決着をつけてからだ」
「でも……」
「自分の始末も出来ない奴が追いかけたとしても、 共倒れになるだけだ。
違うか?」
確かに村主の言う通りである。
まだ助けを要する自分に、 何ができると言うのか。
その前に、 やるべき事がある。
「分かりました。 村主さん 、続きをお願いします」
不安な気持ちを静めると、 トオルはラケットを握り直した。
考えあっての事だと思うが、 村主から送り出されたボールは、 前よりもペースが速かった。
本能でしか対処できないギリギリの間隔を測ったような球出しは、
思考からも、 時折迫る不快感からもトオルを切り離し、
ただひたすら目の前にある課題に集中せざるを得ない状況を作り出してくれた。
「よく思い出すんだ、 トオル。
そいつはオマエに逃げる事しか教えなかったのか?」
違う。 ジャンはそんな卑怯なことは教えなかった。
いつだって正々堂々と勝負することを誇りとし、 自らもそれを貫いた。
「そいつがオマエに望んだ事はなんだ?
そうやって無様にコートで吐くことか?」
違う。 ジャンが望んだのは、 彼を乗り越えるほどの強い男になること。
何にも屈しないだけの信念を持ったプレイヤーに。
「いいか、 トオル。 乗り越える事は、 忘れる事とは違う。
生かすんだ、 オマエの中で。 前に進むことを恐れるな」
乗り超える事は、 生かすこと。 自分の中で永遠にジャンが生き続けるために。
ボールを柔らかく捉えた瞬間、 トオルは直感的にグリップの角度を変えてみた。
記憶の中のジャンのフォームとは若干異なるが、 こうした方が良いと思った。
ガットの上でかけられた回転によって、 打球がふわりと軽くなる。
まるでボールが息を吹き返すような感触が、 ラケットを通じて伝わってくる。
どうやら問題は回転の強弱や打点ではなく、 捉える瞬間の角度にあったようだ。
形に捕らわれ過ぎて、 自分の腕から伝わる感覚を無視して打とうとした結果、
微妙にタイミングがズレていたらしい。
フォームを忠実に再現するのも大事だが、 受けるボールが違う以上、 ガットに当たってから送り出すまでは、
自分の腕をセンサーとして動かすしかない。
ジャンのアングルボレーは、 彼のフォームを真似るだけでなく、
打球ごとに違う角度を自分なりに見分ける技量がなければ、 完成し得ない高度な決め球だったのだ。
偉大なるプレイヤーの姿が重なる。 今度は村主ではなく、 自分自身の中に。
テンポよくボールを送り出していた村主の動きが、 完全に停止した。
「これが……?」
「はい。 ジャンがオレに教えてくれたアングルボレーです」
かつてトオルの胸を熱くさせた、 記憶通りのボレーがコート脇を走り抜けた。
「こいつは想像以上だ」
「『伝説のプレイヤー』 の決め球ですから、 半端じゃないッスよ」
ついに完成した。
遺物となりかけたアングルボレーを、 トオルは今、 自らの手で復活させたのだ。
「よく頑張ったな、 トオル」
「ありがとうございます。 村主さんのおかげです。
さっき練習を止めていたら、 出来なかったと思います」
「いや、 俺は背中を押しただけで、 これが完成したのは、 今までの努力があったからだ」
あれほど強く感じた恐怖も吐き気も、 嘘のように消えていた。
村主とジャンが重って見える事もない。
達成感というのか、開放感というのか。
身も心も軽く感じると同時に、 大きな心の支えを得た気がする。
決め球を手に入れたからではなく、 アングルボレーを完成させた事によって、
ジャンが自分の中で生き続けてくれるという心強さ。
それが何より頼もしく思えた。
「見ていてくれ、 ジャン。 アンタに恥じないプレイヤーになってみせるから」
乗り越える事は、 生かし続けること。
壁を乗り越えた今なら断言できる。
彼は確かに生きている。 彼が命を賭して守ってくれた、 この体の中に。
そしてその事実を、 ほんの少しではあるが誇りに思えた。
「村主さん、 今日は本当にありがとうございました。
病院まで送ります」
「俺はいいから、 あのバカ野郎を頼んでいいか?」
「でも……」
「バカ野郎」 が誰のことを指すかは分かっているが、 冷静になった頭で考えてみると、
つい二の足を踏んでしまう。
昨夜の自分 ―― 悪夢と現実との間を混迷した挙句、 支離滅裂なことを並べ立て、
「死ねば良かった」 などと口走る人間を救えたのは、 唐沢だからであって、
逆の立場で同じ事をやれと言われても、 果たして救いになるかどうか疑わしい。
下手をすれば、 彼の足を引っ張りかねない。
躊躇するトオルに、 村主がもう一度背中を押した。
「考える必要はない。 あのバカに 『俺は乗り越えた』 と、 脅かしてやればいい」
「脅すなんて、 そんな……」
「俺や成田じゃ駄目なんだ。 頼む、 トオル。
唐沢の心に届くのは、 もうオマエの言葉しかない」
この一言がトオルを動かした。
同じ悲しみを持つ者にしか理解し得ない痛みがある。
だからこそ自分が行かなければならないのだ。
何が出来るか分からないが、 せめて寄り添うだけでも救いになるはずだ。
トオルは村主に一礼すると、 唐沢の自宅へと駆け出した。
同じ闇に埋もれる先輩を見つけ出し、 共に前に進もうと手を差し伸べるために。